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日々の雑感

生鮮食料品の値上がりの背景 私感

近年、食料品の価格が何かと話題になっています。お米の不足や卵、キャベツ、トマトなどの値上がりがニュースで取り上げられ、家計への影響を実感している方も多いのではないでしょうか。スーパーの生鮮食品売り場を訪れると、それ以外にもみかんやりんごなどの果物がかなり値上がりしていることに気づきます。

私は当初、農業従事者の減少が原因ではないかと思いました。しかし、農林水産省の統計を調べると、農産物の産出額そのものはそれほど大きく減少していないことが分かりました。それでは、なぜ価格が上昇しているのでしょうか?パンやお菓子などの加工食品の値段も上がっていることから、その影響かとも思いましたが、背景にはさらに複雑な要因があるようです。以下に、その要因を掘り下げてみました。


農業の法人化と人件費の増加

2010年の日本における農業従事者数は約260万人でした。この数値は農林水産省の「2010年世界農林業センサス」のデータに基づいていますが、そこから年々減少を続け、2020年には約136万人にまで減少しました。10年間で約48%もの大幅な減少です。

一方で、農業法人の数は2010年には全国で約14,000法人だったものが、2020年には約24,000法人に増加しました。この増加率は約71%であり、法人化が農業経営の効率化や規模拡大の一環として進められてきたことが背景にあると考えられます。実際、農業総産出額の約4割は法人が占めているとされています。

ただし、法人化による効率化や規模拡大の一方で、人件費の増加という課題もあります。法人化した農業では、安定した雇用を確保するために必要な賃金や社会保険料などのコストが発生します。その結果、生産コストが上昇し、野菜や果物の販売価格にも影響を与えている可能性があります。

さらに、消費者が「安全で高品質な農産物」を求める声が強まっていることも、価格上昇の一因となっています。安全基準の確保やトレーサビリティ対応にかかるコストが、販売価格に反映されているのです。


米の生産量の減少

今年は一部地域で米不足が報じられました。東京や大阪では、一時的にスーパーで米が手に入らない状況もあったようです。しかし、新米の収穫が始まると、米は再びスーパーに並ぶようになりました。ただし、価格は依然として高いままです。地域によっては、減農薬米がスーパーの一般米より安いという逆転現象も見られました。

九州では米不足の影響はほとんどありませんでしたが、全国的な米の産出額は減少しています。例えば、1989年(平成元年)には約3.2兆円だった米の産出額が、2022年(令和4年)には約1.4兆円にまで減少しています。30年で半分以下に減った背景には、収益性の低下による生産意欲の減退があると考えられます。

今後、農業法人の台頭により、お米の生産が法人主体になっていく可能性があります。その際には、米作りで利益が出る仕組みの構築が求められるでしょう。食料安全保障や食料自給率の向上の観点からも、補助金などの支援が重要になってくると考えられます。


気候変動と輸入品の価格高騰

もう一つの大きな要因は、気候変動と輸入品への依存です。気候変動により国内農業が不安定になる一方で、輸入価格の上昇が国内市場に波及しています。円安や輸送コストの増大によって、小麦や果物などの輸入品の価格が高騰し、それが私たちの食卓に影響を与えているのです。

例えば、飼料用穀物の価格高騰は畜産物の価格に、輸入野菜の価格高騰は飲食店のメニュー価格に反映されています。こうした状況は消費者だけでなく、生産者や流通業者にも課題を突き付けています。


今後の展望と取り組み

農林水産省では、「フェアプライスプロジェクト」などの施策を通じて、公正な価格設定や流通の効率化を推進しています。また、国内農業の機械化や補助金制度の充実によって、コスト削減と生産性向上を目指しています。

私たち消費者としては、地産地消を意識して地域の農産物や季節の食材を積極的に選ぶことが、農業支援の一助になるでしょう。また、家庭菜園を始めることで、自ら食料を育て、価格高騰の影響を軽減することも可能です。


まとめ

農産物の価格高騰には、法人化による人件費増加、気候変動、輸入コスト上昇など複数の要因が絡み合っています。これらを単なる「値上がり」として受け止めるのではなく、食料供給を支える人々の努力や構造的な背景に目を向けることで、問題をより深く理解するきっかけになるのではないでしょうか。

あなたの地域では、どのような食材が値上がりしているでしょうか?その背景に思いを巡らせることが、食の未来を考える第一歩になるかもしれません。