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日々の雑感

深い慈悲の道:法然の生涯と現代に生きる教え

先日、ひろ さちや氏の『法然を生きる』を読みました。ひろ氏の法然愛にあふれた本で、法然の出自から丁寧に記述されていて、法然人間性もわかる興味深い本でした。

これまでに知っていたこととこの本のいくつか印象に残ったことを記します。

 

幼少期の悲劇と決意

法然は幼い頃、父の悲劇的な死を経験します。父の遺言は「敵を恨んではいけない。仇討ちをしてはならない。出家して私の菩提を弔い、自己の解脱を求めよ」というようなものでした。幼心に深い悲しみと衝撃を受けた法然はこの遺言を守り、出家を決意します。

 

比叡山での研鑽

比叡山で修行に励んだ法然は、顕密の教えを深く学び、卓越した学識を身につけました。そこで様々な仏教の教えに触れる中で、次第に既存の仏教に疑問を抱くようになり、だれでも救われるような仏教の教えを探求していきます。

 

専修念仏への転換

長年の研鑽と苦悩の日々の中、中国の善導の書いた観無量寿経の注釈書に出会います。その一文は「一心専念弥陀名号 行住坐臥 不問時節久近 念念不捨者 是名正定之業 順彼佛願故」で、その意味は、「ただひたすらに阿弥陀仏の名号を念じ、行住坐臥(歩くときも、立つときも、座るときも、寝る時も)、時節や時間の長短を問わず、常にその念仏を忘れずにいれば、これこそが真の定業(浄土に往生するための確かな行い)であり、阿弥陀仏の本願にかなうものである」。法然はすべての人々が救われる道として、専修念仏の教えにたどり着きます。これは、阿弥陀仏誓願を信じ、念仏を唱えることで、誰でも極楽浄土に往生できるという教えです。従来の仏教が複雑な修行や高度な学問を必要としていたのに対し、法然の念仏は誰もが平等に救われる道を開くことに重点をおきました。

 

民衆への慈悲

法然は、身分や性別、職業などに関係なく、すべての人々に平等に念仏の教えを説きました。貴族や武士だけでなく、農民や商人、さらには罪人や遊女にまで、分け隔てなく救いの手を差し伸べたのです。

 

法然の意外な一面

法然比叡山の師である叡空とのエピソードで、よく言い争いをして追いかけられたという話があります。叡空は法然の学問への情熱を高く評価しており、二人の間には深い信頼関係がありました。法然は師の教えを乗り越えようとするほどの向学心の持ち主で、熱心に議論を交わしていたのでしょう。

 

口称念仏の素晴らしさ

比叡山を下りて念仏の道に入った法然は、遊蓮房円照という僧侶と出会い感銘を受けました。この人は経典など見ず、念仏をひたすら唱える専修念仏者でした。この人と会ったことで、ひたすら念仏するのが自身の行く道だと思い非常に喜んだそうです。

 

選択本願念仏集と建永の法難

法然が「選択本願念仏集」を編纂した後、その内容が、念仏だけがすぐれており他の仏教の修行が間違っていると受け取られ、比叡山から叱責を受けました。それに対して弁明書を提出しました。この弁明書は、法然自身ではなく、弟子の弁長が書いたと考えられています。法然は念仏の教えを広める中で、既存の仏教勢力との軋轢を避けるために、慎重に行動していたのです。これで、比叡山とは手打ちとなったのですが、他の仏教界の重鎮たちは追求をやめませんでした。

そのような時に、朝廷の女官が後鳥羽上皇の熊野御幸中に外泊し、法然の弟子の開いた勉強会に参加して出家しました。これに激怒した後鳥羽上皇により、弟子が4人処刑され、法然は四国に追放されました。親鸞は新潟に、他に何人か流罪になりました(『歎異抄』、流罪記録、『浄土真宗聖典』855ページ)。法然はすごいショックであったと思われますが、その後も特に変わることなく過ごしています。これは、弟子たちが阿弥陀の浄土に往生したと信じていたためでしょう。

 

流罪と晩年

法然は京都を追放された時、地方の人々を教化する良い機会だと喜んでいたそうです。また、女郎がどうすれば良いか尋ねた際には、「できれば仕事を変えた方が良いが、変えられなくても念仏を称えるといい」と答えたといいます。

法然は1年で許されて流刑地から戻りましたが、京都に入ることは許されず、大阪の天台宗のお寺で数年過ごしました。親鸞が赦免されたのは、法然が亡くなる前の年の11月17日でした。しかし、雪深い新潟から京都に戻る間もなく、2か月後の1月25日に法然は亡くなってしまいます。親鸞は流刑が許された知らせと法然の死の知らせをほぼ同じ時期に受けたのかもしれません。

亡くなる前に、法然は弟子たちに、それぞれの場所で布教し、会ったりしない方が良いと言いました。これは、会うと言い争いが起きる可能性や、大きな組織になると比叡山などから目をつけられることを恐れたためでしょう。このことを伝え聞いたのか、親鸞も晩年は京都でひっそりと過ごしました。

 

法然の教えが現代に生きる

ひろ さちや氏の本を通して、法然の深い慈悲心と揺るぎない信念に触れることができました。多くの弟子を持ち、多くの人々を救い、かつ、大きな試練に耐えた法然の精神力は、並外れたものがあります。この精神力は、法然の揺るぎない信心が大きな役割を果たしていたでしょう。法然の教えは、複雑な人間関係とストレスが蔓延する現代社会においても、私たちに生きる指針を与えてくれるのではないでしょうか。

 

参考文献のリンク (下記をクリックしてください)

法然を生きる

浄土真宗聖典